世界が崩壊したのはあっという間だったらしい。 最初に起こったのは、強大な魔力を持つ王の死による“魔の世界”の終焉。それを皮切りに、恐ろしい古代兵器の暴走や大隕石の落下、数々の災厄が続き、地上は生物の生きられない世界へと変わってしまった。 そんな中で錬金術で産まれた魔法生物が私だった。 過酷な環境に耐えうる身体をもち、「未来が見える能力」を備えることによって世界を導き、再生することを期待されたらしい。 しかし私にできたことは未来視によって安全な場所を探し、そこに人々を避難させることぐらいだった。 それ以上にできることなど、もう何も無かったのだ。 安全な場所はほとんど存在しなかった。なにせ地上は、並の生物では死に至る魔力に包まれ、気温は最終的に400度を超えていたのだ。辛うじて世界が崩壊する前に造られていた、いくつかのシェルターだけが人々が生存できる唯一の場所となっていた。 もちろんシェルターでの生活も長くは続かなかった。食糧が無かったのだ。魔力さえあれば私は活動できるが、シェルターで暮らす人々の多くは、やがて飢えて死んでいった。 それはいくつかあった、どのシェルターでも同じだった。 設備のよい大規模なシェルターは何十年と持ったが、そういった場所ほど人が多く、物資の奪い合いなどが起こって悲惨な末路を迎えた。 私が外に出て物資をいくら探して見つけてきても、どれだけ頑張っても、終わりを先延ばしにすることはできても、その未来は変わることはなかった。 もはや荒野とも呼べぬ焼けた大地を歩く。思い出すのは、死んでいった人々のことばかり。守りたかった人たち。 もう人々はいなくなってしまったのだろうか。 それとも、また誰かの悲惨な死を見届けることになるのだろうか? 「あれ……私、寝ちゃってたのか……」 机にうつ伏せて眠っていた少女、魔法少女ヴィネはゆっくりと目を覚ました。 目の前には、日課としてつけている「未来の出来事を書いたノート」が、書きかけのまま置かれている。 「今日見たやつは傑作だったなぁ……。バエルさんにも、あんな可愛いところがあるんだなぁ……」 未来視で見た光景を反芻すると、彼女はそれを忘れぬようノートに書き込む。 彼女の使命は、複雑怪奇で無限の可能性に満ちた世界の未来を守ること。 その一点だけは、これからも変わることがない。