(『ラジオ体操』付近の川辺凍結。移動及び出現には体力の消耗が考えられる為、前回の出現地点での浮上は困難、別の方法を――) (じゃあボク走る!鍛えたから大丈夫だよ!) (『えっあっちょっと待ちなさ』) ボクは少し離れた川辺の薄氷を破って出現した。 これくらいの寒さと氷ならへっちゃらだよ!だってボクは鍛えたからね! 『キィリリリリィ!』 「うわぁー!?怪獣だーっ!?はふはが!」 『キィリリリリィ!』(ここからなら走れば何とか間に合うよね!鍛えたボクの動きを見て皆びっくりしちゃうかも!……あれ?) いざ走ろうとしたら誰かが腰を抜かして頭を抱えて震えていた。 「ははは……ふがふが……(ひいい……故郷の木曽谷の亡霊じゃ……死にたくない…………助けてくれ……)」 『キィリリリリィ!』((………電磁・電波照合による生体情報を確認。80代後半の人間の男性と確認。心身状態の異常探知。……男性の物と思われる総義歯を確認。)) ボクは自慢の長い尻尾……を使わず手で抱き起こして川辺から離れた所に運んであげた。 『キィリリリリィ!』(………大丈夫?お爺さん?怪我は無い?お爺さんも鍛えてるんだね!ボクも鍛えてるんだ!運動って大事だよね!……そうだ!この入れ歯……だっけ?も大事だよね!はいどうぞ!) お爺さんの入れ歯は尻尾で上手く掴んでお爺さんの胸元に置いてあげる。 『キィリリリリィ!』(あっ!急がないとラジオ体操が終わっちゃう!じゃあねお爺さん!寒いから気をつけてね!) 「は……はひはほうほはいは………ふがふが(あ、ありがとうございます……入れ歯……怪獣……やっぱり木曽の……ゆ、夢じゃろうか……)」 ボクは急いで走り出した。 あのプールのことからボクは頑張った。 マスターのいる場所でいっぱい走ったり、泳いだり。マスターもいっぱい褒めてくれた。 ---- (『しかしそのラジオ体操と言うのはエレンにとってはもはや……そのカードも必要な……』) 『キィリリリリィ!』(必要だもん!ラジオ体操は「運動の基礎」だもん!カードもまた押してもらうもん!)ビビビ (『あばばば!わ、分かった続けて良い!続けて良いから!』) 『キィリリリリィ!』(やったー!ありがとうマスター大好き!) (『あ、あぁ……』) ---- 最近はとても頑張ってたからラジオ体操に全然行けなかった。 だから久し振りにボクが行ったら皆びっくりするだろうなぁ! 『キィリリリリィ!』(あっ!) 足元が滑って転ぶ。周りは雪でいっぱいだった。あまりこういう場所には慣れてない。 けれど全然痛くない!ボクは鍛えたからね!ちょっと服が汚れたけれどそれよりラジオ体操に行きたい! ボクはまたまた急いで走り出した。 久し振りにラジオ体操しに行ったら ごとーくんもいっぱいびっくりするだろうなぁ! ……あの小さなおねーさんもびっくりするだろうなぁ。 ……ごとーくんのお友達もびっくりするだろうなぁ。 ((………感情コントロールの大きな変動を感知。鎮静因子活力化。……正常値に安定。エレンの感情コントロール調整修正完了。)) ボクの鍛えた動きを見て皆びっくりするだろうなぁ! だからいつもと違うように出てきて驚かせちゃおう! そうしてボクは久し振りに『ラジオ体操』―――雪がいっぱい!―――の近くに辿り着いて、 皆の様子を伺った。驚かすタイミングを伺う為に、壁からこっそり。 前見た時と同じだ!皆楽しそうで――― 仲良くして笑って。色んな人が抱きついて。 ((………『お弁当』。栄養素となる食料品を加工し箱に詰める携帯食糧のこと)) ((………本身体の口腔部に消化管の最前端及び日本語発声機能の能力無し。摂取不可)) ハグしあって。「またね」って約束して。 くるしい! こわい! いたくない! (『エレン!まだ任務は終わってない!逃走するんじゃない!調査せよ!必ず調査を―――』) 『………キィリリリリィ!!』 どうして?どうしてボクは『こえ』が出ないの? どうして?どうしてボクは『くち』から食べられないの? どうして……どうして『ともだち』なのに一人なの? (たすけて!マスター!たすけて!) 気付いたらボクはマスターのいる場所に帰っていた。 帰り道のことは詳しく覚えてない。 一つ覚えているのは………行き道より、帰り道の水がとても冷たく感じたことだ。 ---- (『……マスター■■■。やはり“M02-03”一体だけでは限界がある』) (『他の“FULRシリーズ“の製造を至急進めるべきだ』) (『一体ばかりに構っているほど、我々は暇ではない』) (『……分かっています。マスター■■■■』)